
企業と学校 白板がつなぐ ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/3/9号
2025/3/17
ありがたいことに、大阪府枚方市長から賞状を受け取った。
小学校にホワイトボードを寄贈したことが、その理由である。
タブレットが1人1台配布される時代に、なぜホワイトボードなのか。
必要だと聞き、最初は私も疑問を抱いた。
しかし授業の様子を目の当たりにして考えが変わった。
探究ラボと呼ばれる教室では、壁一面のホワイトボードを囲み、小学生たちが活発に議論を交わしていた。
ある児童はグラフィックレコーディングという手法で、議論の内容を図やキーワードで整理していた。
別のグループではホワイトボードに互いの意見を書き込んで視覚化し、思考を深めていた。
この光景を見て納得した。
しかし、なぜ学校はホワイトボードを自前で買えなかったのか。
理由は教育委員会への申請が必要であり、限られた予算の中で優先順位をつける必要があったからだ。
日本の公立学校は、学校の裁量で自由に予算を使えるわけではない。
校舎の補修や教材の整備など、優先事項は多い。
米国では学校が資金を調達する仕組みが発達している。
Apex Leadership Co.やBoosterthonといった企業が学校と連携し、
フィットネスイベントや寄付プラットフォームなどで資金調達を行う仕組みを提供している。
これによって各学校に数万ドル規模の資金が集まり、図書や備品、課外活動の資金として活用されている。
日本では、こうした仕組みはまだ発展途上だ。
それでも、日本の教育者たちは驚くほど質の高い教育をしている。
ホワイトボードを寄贈した枚方市立東香里小学校では児童が社会課題を発見してビジネスモデルを考案し、
プログラミングをしてロボットを試作し「TED形式」でプレゼンテーションを行い、説明動画まで編集している。
企業が求める課題発見力や問題解決力、プレゼンテーション力を小学生のうちから養う、
まさに未来のリーダーを育てる取り組みだ。
この探究学習の成果をさらに広げるため、私は小・中・高・高専、地域の教育委員会と協力し、
大阪・関西万博の「TEAM EXPOパビリオン」で7月18日に彼らが集結する場を開催する。
未来の教育の可能性を広く社会に示し、全国の教育関係者や企業と連携する場とするためだ。
しかし、ここでも資金の壁が立ちはだかる。
参加のための旅費は多くて200万円はかかる。予算が確保できず、参加を断念せざるを得ない学校も出てくるだろう。
こうした現実を知るほどに考えさせられる。
教育が未来をつくることは誰もが認める事実だ。しかし、その未来を支えるための仕組みは、まだ整っていない。
私が賞状を受け取るよりも本当にたたえられるべきは、
限られた環境の中でも質の高い教育を提供し続けている教育者たちだ。
資金や制度の制約がある中でも、子どもたちの可能性を信じ、創意工夫を重ねながら最善の学びの場を作り出している。
彼らの努力こそが、日本の教育を支える礎となっている。
ホワイトボードは、その象徴のひとつにすぎない。