
技術が生んだツール乱立 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/3/23号
2025/3/31
テクノロジーが生み出した無限の選択肢が、人々を迷わせ、決断疲れを引き起こしている。
例えばマーケティングオートメーションは企業の業務を効率化すると期待され、
マーケティングや営業、顧客サービスなどを個別のツールで最適化する流れが加速した。
しかしツールが乱立し、企業は複雑な管理に振り回されたことから、
セールスフォースやハブスポットのように全てを統合できるプラットフォームが求められるようになった。
決済手段も同様に変化している。
かつてはペイパルが市場をリードし、Pay Pay(ペイペイ)や楽天ペイなど国内でも数多くのサービスが登場した。
しかし選択肢が増えすぎて消費者が混乱したことから、LINEペイの撤退など統合の流れが進んでいる。
あらゆる業界が選択肢の乱立から統合へと向かう流れの先にあるのが、「エージェントモデル」だ。
エージェントは顧客の代わりに最適な選択をする存在である。
人類学者ロビン・ダンバーの研究によれば、人が親しく付き合える友人の数は150人が限界。
日常的に深く関わるのは5~15人に絞られる。
同様に、無数のアプリやツールが存在しても、
最終的に人々が使い続けるのは数個のエージェントに集約されるはずだ。
決済、コミュニケーション、情報収集、仕事の管理といった役割を担うエージェントが、
限られた「理想の友人」のような存在になるだろう。
昭和の頃は、なじみの電器店の店長が顧客のライフスタイルに合った商品を提案し、キャンペーン情報を伝えていた。
今後はその役割をエージェントの人工知能(AI)が担う。
アマゾンやネットフリックスなどのレコメンド機能がさらに進化し、
顧客が意識しなくても最適な選択肢が提示される時代がやってくる。
エージェントの時代に向けて企業が今取り組むべきことは、意味のあるデータを蓄積することだ。
どれほど優れたAIが登場しても、企業がデータを整備しなければエージェントは機能しない。
特にパーソナライゼーションの観点から、活用できる体制を整えておくべき顧客データは次の3つである。
第一は購入履歴のような基本データ。
誕生日や購入記念日などは、シンプルながら顧客との関係構築に欠かせない。
第二は顧客とのやりとりのデータ。
問い合わせ履歴やSNSの反応を分析し、顧客の疑問や関心、刺さる言葉を把握することで、
より効果的なアプローチが可能となる。
第三は顧客の行動データ。
閲覧履歴や購買頻度を分析し、どのタイミングでどんな商品に興味を持つかを理解することで、
LTV(ライフタイムバリュー)を意識した施策を打ち出せる。
結局のところ、どんなにツールが進化してもAIが賢くなっても、マーケティングの本質は変わらない。
それは顧客を理解し、寄り添い、関係を深めることだ。
エージェントモデルが普及する未来においても、顧客に関心を持ち、自社に誇りを持つ。
このシンプルな原点に立ち返ることこそ、マーケティング迷宮からの脱出の鍵となる。