トランプ劇場 台本の作り方 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/6/16号

2025/6/23

毎朝スマートフォンを開くと、彼の〝劇場〞が始まっている。
関税引き上げ、中東交渉、教育省廃止、ハーバード大学の留学生制限――。
次から次へと繰り出される政策に世界中が反応する。

是非はさておき、私はある一点に心を奪われた。
「なぜこれほど速く変化を起こせるのか?」

ハーバード大への対応1つを見ても鮮やかだ。
米トランプ政権は同大の留学生プログラム認証を取り消し、
「同じ金額なら、この国のためにもっと配管工などの職業訓練校をつくるべきだ」という明確なメッセージを発した。
この一手は瞬く間に全米、そして全世界に影響を与え始めた。

政権に返り咲いたドナルド・トランプ大統領の動きには、一貫した〝象徴〞の設計がある。
これは、マーケティングの最前線にも通じる〝問い〞なのだ。

注目すべきは周囲のチーム編成の変化である。
2016年の選挙ではA/Bテストを駆使して広告を最適化したデジタルマーケターが活躍していたが、今回彼はいない。

代わって台頭したのは27歳の報道官キャロライン・レビット氏、
保健福祉省をつかさどるロバート・ケネディ・ジュニア氏、そして政府効率化省を率いたイーロン・マスク氏だ。

彼らに共通するのは「象徴を語る力」。
データや分析より、人々の心を揺さぶる言葉や行動を持つ人々が前面に立っている。

トランプ氏は時代に合わせてチーム編成の軸をシフトさせたのだ。
もはや政策そのものより「どんな一言が象徴として残るか」が問われていることを、トランプ氏は熟知している。

トランプ氏にとって経営計画は「次に何を見せるか」の台本であり、危機管理でさえ「物語の展開」として扱われる。
その結果、彼の周囲には象徴を担う人間が集まりメッセージの火種となる。

私はここに新たなマネジメントのヒントを感じる。
それは「目標を細かく指示しないこと」。代わりに「象徴で方向性を示すこと」。
この旗印を立てるとチームが自走し始めるのだ。

「Make America Great Again」という象徴に匹敵する力を日本でも生み出せるのか、私もやってみたことがある。

「問いでつながる美術館」をメタバース空間上につくるクラウドファンディングに取り組み、
「UN’LOCK JAPAN」という象徴言語を掲げた。
これは人工知能(AI)時代に「問い」の力で日本を解き放つという意味だ。

結果、開始わずか4日で、クラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー」のビジネス起業カテゴリーで
歴代トップの支援額を記録した。

なぜか? 強い象徴が人々の共感と行動を一瞬で呼び起こすからだ。
理屈や詳しい説明ではなく心を揺さぶるシンボルが人を動かす。

そんなシンボル・ドリブン・マネジメントの時代に、企業は何をすべきか。
それは「自社の本質」を鮮烈な象徴に凝縮し、その象徴と行動を一致させることだ。

SNSでバズるのは、心を震わせる象徴である。
時には炎上すらも計算に入れ、象徴を使いこなす。

そこに、SNS時代の最強タイムマネジメントがある。



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