膨大な「顧客の声」組織でどう使う ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/12/1号
2025/12/8
「Book&Pen」というイベントを、神田明神ホール(東京・千代田)で開催した。
読書文化の普及を目指し本好きと著者・著者候補が集う場で、読書会や表紙づくりワークなどを実施。
会場とオンライン合わせて1200人超が参加し盛況だった。
基調講演に登壇いただいたのは7月の参院選で初当選したチームみらいの安野貴博党首と、編集者の黒岩里奈氏。
安野氏の著書「1%の革命」を題材に読書会も行い、マーケティングの視点から選挙戦を振り返った。
都知事選挑戦を経て、わずか数カ月で国政政党化を果たしたチームみらいは、
1%の支持層を着実に巻き込みながら共感を広げていった。
新商品を世に出したい企業にとっても、非常に参考になるケースだ。
安野氏によれば、勝因の中心は「パブリックリスニング」だった。
著書では「市民の声を拾い、即応することで政策に反映し、共創のプロセスを見せていく手法」と定義する。
そのスピード感と一貫性が納得を生んだ、と安野氏は分析する。
人々の声に耳を傾け、改善し、反映する。
これはビジネスでも同じである。
CoCo壱番屋創業者の宗次徳二氏やスーパーホテルの山本梁介会長など、毎朝顧客からのはがきを読み、
現場に具体的な指示を出していた名経営者は多い。
ところが、このシンプルな行動が現代では実行されにくくなっている。
理由は明白だ。声が千差万別で膨大すぎるのである。
多様な立場や視点をくみ取ろうとして、何から手をつけてよいか思考停止に陥っている。
経営者も現場も「顧客の声は宝物」と思ってはいるが、保管するだけで使いきれていない。
声は集まるが、滞留し流れない。
しかし人工知能(AI)を駆使すれば、顧客の声は再び宝物に変わる。
私の例を共有しよう。
まず「NRR」をゴールに設定した。
カスタマーサクセスで注目されている指標で、顧客との関係が「続く・広がる・途切れる」のどれかを測る。
次に、NRR改善の情報を集めるアンケートをAIで設計。
回答結果からNRRに関わる要素を抽出するようAIに指示すると、顧客の膨大な声が一瞬で整理された。
結果を全社で共有する際には、「Keep(良かった点)」「Problem(課題)」「Try(提案)」の枠組みに当てはめた。
これによって冷静に建設的な対話ができるようになる。
その結果、先述のイベントでは「開催レポートを即日発信する」というTryを行うことにした。
実行すると、参加者から「自分の声が反映された」と喜びの反応が返ってきた。
安野氏は言う。「プログラムコードの1%を改善するだけで、全く違うものになる」。
アプリの読み込みが3秒遅いだけで、ユーザーは離れる。
たった1行の改善が全てを変える。
顧客の声も同じだ。
小さな改善の積み重ねが、信頼の連鎖を生み出す。
顧客の声を拾い、整理し、即座に応え、変化を見せていく。
声を組織に流し、通わせる。
「流通」の本質が、AIによって現場でも体感できるようになっている。




