AIエージェントどう使う ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」26/2/2号

2026/2/9

「AI(人工知能)エージェント革命」というフレーズがあふれている。
指示を出せばAIが自律的に動き、タスクを完遂する。

「ボタン一つでAIチームが勝手に仕事をしてくれる」。
そんな未来を皆、夢見ている。

実は私もここ半年、AIエージェント作りに完全にはまっていた。
幼稚園の頃、プラモデルを1日中作っていたあの感覚だ。

毎日が楽しすぎる。生産性が劇的に上がる。

だから私は断言した。
社員のAIエージェント制作の密度が高い組織が圧倒的に勝つ、と。

ところが私は重要なことを見落としていた。

2025年12月、米グーグルとマサチューセッツ工科大学の共同研究が、180もの実験を通じて衝撃的な結論を出した。
「AIエージェントを増やすと、パフォーマンスが最大70%低下するケースがある」。

エラーが連鎖し、失敗率は最大17倍に跳ね上がる。
これは、これまでの常識「エージェントを増やせば増やすほどいい」という楽観論を覆す結果だ。

先日、ある中堅メーカーの社長が私に嘆いた。
「毎週のようにAIツールの営業が来るんです。皆、革命的だと言う。
試しに3つ契約したら、社員から『どれを使えばいいんですか?』と聞かれる。私もわからない」。

私はこれを「エージェント迷宮」と呼ぶ。

AIは仕事を加速させる。だが方向性がなければ、どこにも向かえない。
迷宮の中を猛スピードで走り回っているだけだ。出口はどこにもない。

ツールが増えるほど、データは分断されで全体像は見えなくなる。
社員はどのツールを使うべきかわからず、立ち尽くす。

問題はエージェントの数ではない。
それを指揮する人間がいるかどうかだ。

では、その「指揮」とは何か。

米国のテクノロジー見本市「CES2026」で、マッキンゼーのボブ・スターンフェルスは、
AIには絶対にまねできない人間の3つのスキルを挙げた。

1つ目は「どこに向かうのか ― Aspiration(未来への意志)」。
AIは未来を創る意志は持てない。

2つ目は「どう突破するのか ― True Creativity(飛躍的創造性)」。
AIは飛躍的発想は苦手だ。

3つ目は「何を選ぶのか ― Judgment(文脈的判断力)」。
倫理も感情も空気も、AIには読めない。

ツールは人を救わない。
方向性を持つ人間が、ツールを使いこなす。

だからエージェントを10個作る前に、問うべきはこうだ。
「我々は、どこに向かっているのか?」。
この問いに答えられない組織は、どれだけエージェントを増やしても迷宮から抜け出せない。

だが、答えを出すのは難しい。
頭で考えているだけでは何も見えてこない。

そこで、まず手を動かすことだ。
優れたエージェントに触れてみる。
使ってみて初めて「これは使える」「これは使えない」が見えてくる。

そして次のステップは、自分のエージェントを作ることだ。
特にベテラン社員こそ作るべきだ。

長年の経験で培った暗黙知を、エージェントに継承できるチャンスである。
そして、それはプラモデルを作るぐらい簡単になっている。



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