社名は未来への展開図 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」11/5号
2018/11/12
私事で恐縮だが新しい会社を設立するにあたり、その会社名を決めるのに1カ月ほど悩んでいる。
慎重になっているのは、10年前と比べて社名をつけるのが格段に難しくなっているからだ。
社名は会社の命運を分けるといっても過言ではない。
難しくなったのは検索エンジンの存在がある。
昔はフリーダイヤルの0120の後の番号が覚えやすいかどうかで、
電話がかかってくる頻度が左右された。
今は社名が検索結果を大きく左右する。
自社と似た名前の会社やモノが多いと、お客様が検索した時にそれらのページと競争になり、
検索結果の上位に表示されにくくなる。
上位表示されるには莫大な時間と広告費などのコストが必要だ。
それを避けるためには、ユニークかつオリジナルな言葉を社名にしないといけない。
しかも、それは覚えられやすくなければならない。
そこで最近のベンチャー企業は、四文字のユニークな社名が目立つ。
メルカリ、ココナラ、サンサン、ラクスルはその一例だ。
発音しやすく、覚えられやすい。
一度見ただけで覚えられれば、検索もされやすい。
広告に頼ることなく、お客様を集められる。
覚えやすさということでは、外国人を意識することも重要だ。
海外に出なくても、さらに増えるインバウンド(訪日外国人)客を考えると、
外国人が発音しやすく、スペルが覚えやすいものを選んだほうがいい。
成長性をアピールできる社名かどうかも重要だ。
今、ベンチャー企業の社名は、「テック」という言葉を組み合わせることも多い。
「テクノロジー」を想起させることによって、既存の成熟市場を超えた広がりを描けるからだ。
不動産であれば不動産テック、金融であればフィンテック、食料品であればフードテックというように、
まったく新しい領域を開拓しているようにみせて、成長性をアピールするわけだ。
また、扱う領域を広げるネーミングも重要である。
たとえば、ウーバーはドイツ語で「オーバー」の意味。
それが「シェアタクシー」を想起させる名前だったなら、
既存のタクシーと似たイメージがつき、成長も制約されただろう。
しかし、オーバーということで、バスや物流も含む巨大なモビリティー市場に活動領域を広げられた。
これはアマゾンも同様。
創業者のジェフ・ベゾスが、世界で最も広大な河川からつけたと言われるが、
もし社名が「アマゾンブックス」なら、今のような事業展開はできなかっただろう。
ソフトバンクも、パッケージソフトウェアの流通から始まったが、
名は体をあらわすというように、今やメイン事業がバンク(金融)に変わりつつある。
社名、商品名、さらにはプロジェクト名などすべての名称は
未来への展開図がすべて収められた種子といってもいい。
論理と感性、デジタルとアナログ、双方の技量が試される。
まさに戦略そのものだ。
情報爆発の中で、自然に検索され、世界へ拡散し、未来へ成長する名前を生み出すことは、
これからマーケッター必須のスキルとみなされるようになるに違いない。