ポケモン世代の経営者 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」6/4号
2018/6/11
昨年ごろから面白い動きがある。
1986~87年生まれに成功を収める経営者が彗星(すいせい)のごとく現れていることだ。
クレジットカードの決済手数料を無料にし、29歳で上場したメタップスの佐藤航陽社長、
ライブ動画配信で収益トップのショールームの前田裕二社長、
日本初の株式投資型クラウドファンディング「ファンディーノ」の
大浦学COO(最高執行責任者)は代表格。
著名メディアアーティストの落合陽一さんも同世代だ。
私は時代が70年周期で循環すると考える。
戦後を井深大氏や本田宗一郎氏といった当時30代が作り上げたように、
2011年以降の70年を作り上げるビジネスリーダーが誕生しそうだ。
彼らは新たな価値観を持ったリーダーだ。
特徴は金稼ぎよりも「社会変革」に強い関心を持っていること。
前田さんは「機会格差をなくすこと」、佐藤さんは「経済の民主化」を目指している。
時価総額の最大化を目指し「拝金主義」とレッテルを貼られた一昔前のIT長者とは違う。
なぜ、こうした経営者が、86~87年世代に集中しているのか。
私の答えは「ポケットモンスター」だ。
自我が芽生え始める10歳前後に夢中になった物語は、
大人になったときの価値観に大きな影響を与える。
今の50代なら「ウルトラマン」。
自分と異質なものを「敵」とみなして戦う。
ギリギリまでスペシウム光線を発射しないことで
「敵と戦う」「目標達成より、過程の気合と根性重視」といった価値観が培われた。
一方、86~87年世代は、96年に発売されたポケモン初のゲーム「赤緑」や
アニメの影響を色濃く受けている。
ポケモンの特徴は「敵がいない」こと。
多様なモンスターとは戦うのではなく遊び、ポケモンマスターはポケモンを育てる。
この世界観に親しむことで、「皆で共生する」という価値観が培われ、
世の中をどう作り上げるかに関心を持つようになったのだろう。
次々と課題をクリアするゲームのスピード感に慣れているので、経営のスピードも速い。
仮想通貨やブロックチェーン、eスポーツなど話題のビジネス潮流も
ゲーム世代の彼らがつくっていると考えると、その本質がわかる。
来年からは元号が変わり、新時代が幕を開ける。
今後はポケモン世代の経営者たちが経済の中核を担う。
彼らがいれば日本の未来も明るいという一方で、課題もある。
ポケモン世代のスタッフとの接し方だ。
彼らの価値観の元になっているゲームにはクリアな目標があり、ミッションがある。
どうすれば評価されるかも明確だ。
対して現実は極めて不完全、と指摘するのは
「幸せな未来は『ゲーム』が創る」の著者、ジェイン・マクゴニガル。
ビジネスもゲームのように熱中できる仕組みがないと、見向きもされなくなる。
そう考えると、今後の企業経営は2つの視点が鍵となる。
1つは任天堂やカプコンのように「ゲームをビジネスにすること」。
もう1つは「ビジネスをゲームにすること」だ。
いかにビジネスをゲームのように完璧にデザインするかが、経営者には求められている。