象徴が引き出す行動力 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/5/13号

2019/5/20

顔は、強力である。

会社を象徴する人の顔入り広告と、顔なしの反響を比べると、顔入りの方が明らかに反響が大きくなる。

私はコンサルティングの現場で将来の企業戦略を見いだそうとする時、創業者の笑顔をイラストで描き
「創業者が現代に生きていたら、どんな状況に満足を感じるか」という問いを立てる。

すると、多くの場合、社員自らが広がりすぎた事業分野の選択と集中を進めだそうとする。

このように顔を象徴的に活用した場合、人々の求心力を高め、行動力を引き出す効果を持つ。

4月発表の新紙幣の肖像画についても長期的に同じような効果が表れるだろう。

肖像画が国民の共通イメージになる結果、
意識せずとも、その人物の偉業を模範に動き始める人が増えるのではないだろうか。

新紙幣の3人には、令和時代の方向性がわかりやすく提示されている。

まず1万円札の渋沢栄一。
「日本資本主義の父」と呼ばれ、あらゆる業界で約500企業の創設に関わった。

驚くことに、東京ガス、みずほ銀行、清水建設を始め、300以上が存続している。
今で言う「連続起業家」であり「ベンチャーキャピタリスト」といえるだろう。

そこから見いだされる方向性は、ベンチャーが次々と生まれるのが当たり前の社会だ。

すでに兆候は現れている。
各務茂夫・東大教授によると、東大新入生の10人に1人がベンチャー志望だという。

さらに、渋沢は、著書『論語と算盤』で「道徳経済合一説」を唱えた。
道徳と経済は不可分で、本質的に一致するという考えだ。

彼が肖像画になることで、経済一辺倒でもない、社会性に根ざしたベンチャー教育が求められ、
そうしたベンチャーこそが人々の支持を得られるだろう。

5千円札の津田梅子は「女子教育の先駆者」と呼ばれる。

女性活躍を推進する事業が出てくるのは明らかだが、
それ以上に注目なのは、岩倉使節団の一員として6歳で渡米したことだ。

私は、彼女に施されたような「ギフテッド教育」(天才教育)が注目されると考えている。
なぜなら2022年度から、高校の新学習指導要領のなかで「探究型学習」が主軸になるからだ。

生徒自らが課題を見出し、解決に必要な知識や技能を獲得していく学習で、
イノベーティブな人材をつくることを目指している。

この流れから津田が体現していた天才教育が広がると、私は考える。

そして千円札の北里柴三郎。
破傷風の血清療法やペスト菌を発見した研究者として医療の世界に大きな影響を与えた。

超高齢化社会も手伝い、医療・健康分野に活路を見いだす人は確実に増える。
さらに、北里が細菌学の権威だと考えれば、日本古来の発酵食品・技術、培養の分野にまで、事業領域を広げられるだろう。

テクノロジーというとAI(人工知能)やあらゆるものがネットにつながるIoTなどのIT(情報技術)ばかりが注目されるが、
日本らしさを考えれば、新札が活路を見いだすヒントになるのではないか。

 

 

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