映像制作会社の脱・価格競争 ―日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」10/16号
2017/10/23
デジタル広告を始めると、明らかになることがある。
それは、オリジナルな強みを持つビジネスモデル以外は、生き残れないということだ。
試しに、あなたの会社の商品に関連するキーワードを検索してみるといい。
目の前には、ライバルの広告が並ぶだろう。
その中で、他社と同じような商品を販売していると、
価格だけが差別化要因だから、一気に価格が下落する。
あるサイト制作の分野では、今まで30万円程度が相場だったのに、
1社が価格訴求の広告を出し始めたところ、市場価格は20万円、15万円と急落。
1か月後には、条件付きだが無料で提供する会社まで現れた。
あなたが未来にモテたいなら、そんな不毛な戦いから抜け出したほうがいい。
その代わりに、異分野と組み合わせて、新しい事業を創造するのだ。
ブライダル映像制作会社のUKは、
年間千本以上のウエディング記念動画制作をするベンチャー企業だ。
創業5年で全国展開するほど急成長してきたが、
価格プレッシャーには、常に悩まされていた。
そこで彼らがとった行動は、価格競争に挑むことではない。
本業と異分野を組み合わせて、全く新しい価値を生み出したことだ。
まず手がけた異分野が「教育事業」である。
ブライダルのカメラマンが講師となり、写真や動画の撮影教室をスタート。
さらには、家にいながら、画像や映像の編集技術が学べるオンライン講座も始めた。
次に組み合わせたのは、「クラウドオペレートカム事業」だ。
結婚式場に数台のカメラを常設し、結婚式を撮影。
その動画データを編集スタッフの元にネットで送信する。
こうすると、撮影スタッフは会場まで出向く必要がないため、
大幅なコスト減が可能になる。
デジタル時代が進化したために、初めて実現できた事業モデルだが、
取り組んでみると、この事業には、思いがけないベネフィットが見つかった。
それは、障がい者に新しい仕事を提供できることだった。
この仕組みなら、障がい者が自宅で作業しても不都合はない。
むしろ、ひとつの仕事に時間をかけられるので、
より丁寧な作品ができあがることがわかった。
このように「動画制作事業」×「教育事業」×「福祉事業」という
新しい組み合わせにより、誰もが喜ぶ仕事が生まれた。
結婚式場は、お得な記念動画を提案できるし、障がい者は、収入が増加。
そしてUKは人材採用難を解消できるようになったのだ。
すでに何人かの障がい者が編集スタッフとして働いているが、
思わぬ副次的効果も生まれている。
動画を編集しているうちに、気持ちが前向きになり、
自分も「結婚したい」という思いを抱き始めるという。
広告をネット上に手軽に出せるようになった現在、
いままでの事業モデルに固執しながら、
価格競争に懸命になっても、その先には、崖しかない。
あなたも自分の業界の殻に閉じ籠もるのではなく、
異分野との結婚に、前向きになってみないか?
価格競争の先にはない、幸福な事業が見いだせるはずだ。