巣ごもり需要の火種 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」20/10/19号

2020/10/26

家電量販店コジマの2020年8月期の営業利益は72億円と、従来予想の26億円から3倍近く上振れした。
1人10万円の定額給付金の影響が大きいと見られている。

普通に考えれば、これは一部の業界で起こった一過性のバブルといえるだろう。

しかし、やりようによっては持続的な需要創造につながると私は考えている。

というのは米国では、似た需要増が住宅関連の幅広い業種で起こり、どんどん膨らんでいるからだ。

たとえば家庭用品小売りのベッド・バス・アンド・ビヨンドは、20年第2四半期にオンライン販売が89%伸びた。
また白物家電大手のワールプール社は、売上高が約2割減ったが6月は予想以上に持ち直している。

需要増は生活実感としても現れてきた。
先日、フロリダに引っ越した私の知り合いと話したところ、注文した家具が届くのは3カ月後だと嘆いていた。

この「巣ごもり需要」は予想以上に力強い。巣ごもりに留まらず、巣ごと変えてしまう人々が増えたのだ。
7月の住宅着工件数は、前年に比べて23.4%アップした。

住宅関連需要が急増する要因は、1980年代から2000年代初頭に生まれたミレニアル世代が結婚適齢期に入り、
住宅を取得するタイミングにハマっていることだ。

しかも、彼らはデジタル世代。
どこでも仕事ができるので、都市部の住居を引き払い、フロリダなどの温暖な気候のサンベルト地域に住み始めた。

その勢いを加速させたのは、政府の積極的な経済支援策だ。

現在も、巨額の追加経済支援策が検討されている。
景気回復の火種ができたと感じたら、その火を大きくしようと、政府が積極的に薪をくべているわけだ。

このように人口動態と技術革新が合わさることで、経済に好影響を与えて、米国株高を下支えしている。

ミレニアル世代が家庭を持ち、家を買うのは、20年代後半まで続く。

国の支援に乗ってミレニアル世代が家を買い、リモート環境下でデジタル技術を積極的に使えば、
米国経済はコロナ禍を乗り越えて、大きく変革・成長し続けるのではないか。

日本はどうか。

米国のミレニアル世代のような人口ボーナスがないのは仕方がない。
しかし政府がせっかくできた火種を放置して、薪をくべる前に火を消している。

菅新内閣になり、火種に薪をくべる抜本的な総合経済政策が発表されればいいのだが、何も聞こえてこない。

日本学術会議の任命拒否問題など、海外からみれば、ポジションにしがみつくおじさん同士の権力争いでしかない。
この対比があまりにも情けない。

菅首相は「東京五輪は開催する」と宣言した。
東京五輪は、日本のデジタル変革を進め、景気を浮揚させる絶好のチャンスだ。これを逃してはならない。

権力争いはあとでもできる。
ここは、日本も米国同様に、ミレニアル世代を対象とした総合経済支援策を打ち出すべきだ。

 

 

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