デジタル時代の営業「PLG」 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/9/6号

2021/9/13

デジタル時代の営業は、どんどん進化している。
この5年、日本でも大いに普及したのが、マーケティング業務を自動化するマーケティングオートメーション(MA)だ。

MAではナーチャリング、すなわち見込み客から顧客を育成する。
商品をわかりやすく説明したホワイトペーパーを入り口とし、
ダウンロードした人に対して営業スタッフが電話をかけてクロージングするのが一般的だ。

だが、あまりにホワイトペーパーが乱立したことから読んでもらえなくなり、
このMAを突破口にした営業は行き詰まり始めている。

また、見込み客から何らかのコンタクトがあると、リターゲティングの仕組みを使い、
その客に対して繰り返し自社の広告を表示してきた。

だが大手プラットフォーマー各社がクッキーの規制を強化しているため、
その活用にも制約がかかるようになった。

そこで出てきた概念が、PLG(プロダクト・レッド・グロース)だ。
PLGとは、シンプルにいえば、まず無料で商品やサービスを試してもらい、有料利用につなげるモデルである。

たとえば、会計ソフトなどのSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の場合、期間限定の無料トライアルを用意する。

無料トライアルは珍しくないと思うかもしれない。
だが、有料会員になるまでの一連のプロセスを分解し、つまずかないように緻密に設計しているのが、PLGの特徴だ。

SaaSの無料トライアルに申し込んでも、そのまま使われないケースは多い。
従来業務で使っていたシステムと統合できるか不明な上、全社員のIDの設定や顧客情報の入力などの準備が面倒で、
挫折することが多いからだ。

それらを踏まえ、PLGでは、つまずきやすいプロセスを改善したり、
設定の工程が何%終わったかがわかる「プログレスバー」を設けたりして、スムーズに有料契約に至る仕組みを作り上げる。

無料期間が終わる少し前には、サービスを使う利点や類似の顧客事例を伝え、
期間終了直前には「今得られている利便性は失われる」とお伝えする。

タイミングに応じて必要な働きかけをするだけでなく、顧客の反応を数値で測り、効果を分析する。

それでも、有料でサービスを継続しなかったら、理由を聞く。
答えに応じて、一時的な価格ダウンを提案したり、営業スタッフから機能を説明したりなどの対応がなされる。

成約から継続までほぼデジタルで進めるのもPLGの特徴だ。

「うちのサービスはデジタルで営業するのは無理」という会社は多い。
だが、今や大半のことはデジタルででき、任せられるところは任せた方が良い時代だ。

そうすれば、営業スタッフは人間しかできないことにフォーカスできるようになる。
営業の役割とは、顧客の真の課題を見出し、クライアント内の異なる意見を調整すること。

PLGを活用し、そこにスタッフの力を集中して注ぎ込むのと、すべて人力で行うのと、どちらが結果が出るか。
違いは歴然だろう。

 

 

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