デジタル空間での接客 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」21/10/4号
2021/10/11
買い物をしようと新しいお店に入ったとき、買おうかどうか迷っているのに、店員に無視される。
結果、何も買わずに店をあとにした……。
こんなお店を、あなたは評価するだろうか?
多くの人の答えは「NO」だろう。
しかし、そのようなおざなりな接客が当たり前に行われているのが、デジタル空間の現状である。
長引く新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの会社がネット営業・販売に軸足を移しているが、
その大半は、驚くほど何も接客ができていない。
それを思い知らされたのは、「ペングル」というサービスを知ったときだ。
通販サイトなどに導入するLINEを使ったAI(人工知能)チャットのサービスで、
商品ページを見たがサイトから立ち去ろうとしている人を接客。
継続的に情報提供して、購入や会員登録などのコンバージョン率(CVR)を高める仕組みだ。
導入した中古車買い取りサイトではCVRが20%に上昇し、
ペットフード通販サイトでは他の広告より定期購入比率が2.7倍に上がったという。
サービスを開発したアイトリガー(東京・新宿)の奥川哲史社長と対談した際、
詳しく仕組みを尋ねたところ、AI接客のポイントは3つあるという。
第1は「タイミング」。
画面スクロールの速度やクリックした箇所など、サイト内を回遊するお客の行動をAIで分析すると、
離脱する2秒前に特徴的な行動パターンを見せることがわかった。
そのパターンを察知した瞬間にAIボットがアプローチすると、離脱が少なくなる。
店舗でいえば、ドアに向かって足を踏み出す2秒前のタイミングで声をかけるイメージだ。
第2のポイントは「声のかけ方」。
「お困りですか?」「何かお手伝いできることはございますか?」。
最近はチャットボットを使って、リアル店舗のような応対をすることが増えてきた。
しかし、そう質問されても返答に困るお客は多い。
自分自身のニーズが明確になっていないので、答えようがないからだ。
そんなお客に対して最も良いアプローチが「診断テスト」だ。
家のリフォームなら「理想の住まいをかなえるうえで、何が障害になっていますか?」などと聞く。
DX変革サポートなら「貴社のDX変革で、何が前進を阻んでいますか?」と聞く。
ゲーム感覚の診断やアンケートで、お客自身が気づいていない潜在ニーズを明確にするわけだ。
第3は「LINEへの誘導」。
老若男女を問わず日常で使っている人が多く懐に入り込みやすい。
法人でも決裁者が1人なら、やはりLINEが効果的だ。
このように、お客にとって購買に至るまでの滑らかなルートを用意すれば、成約率は大きく上がる。
リアル店舗なら当然のことが、ネットでは全くされていなかった。
もしあなたの商品も、ネットで売れないとしたら、商品力の弱さでも需要の少なさでもなく、
サイトまで足を運んでくれた見込み客をスルーしていることが原因かもしれない。
そのちょっとした接客を改善すれば、成果は必ず表れる。
今からでも遅くはない。
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