AIと経営者の人生期 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」23/4/10号

2023/5/2

先日、熱心な経営者が集う「21経営研究会」(静岡県三島市)で基調講演した。

「人工知能(AI)によるビジネス進化について話して欲しい」とのことだったので、
話題の人工知能ツール「ChatGPT」を使って、参加者が抱えていた課題をその場で解決するという実演をした。

すると長年悩んでいた難題への答えが、みるみるスクリーン上に映し出され、精度の高さに会場は静まり返った。

ここで予想外のことが起こった。
経営者たちがメモを一斉に取り始めたのは、AIとはまったく関係のない書籍
「Stage」(スーザン・ウィルナー・ゴールデン著・未邦訳)を紹介したときだ。

同著は人生100年時代では、年齢によって社会に関わる活動量を制限する必要はないと主張する。
たとえば、50代で人工透析している人と、70代で毎日運動をしている人では後者のほうが若い。

だから年齢による区分はもはや無意味。
エイジ(年齢)ではなく、ライフステージで考えるべきだというのだ。

日本の経営者の平均年齢は63歳。
ステージで考えると決して人生の下り坂ではなく、ルネサンス(再誕期)のステージである。

私は「人生100年時代、もう実年齢は忘れてください」と言ったところ、懇親会の話題はもっぱらこの話になった。

「元気になった」という声とともに、AI本格時代に活躍するための、前向きな議論が交わされ始めた。

参加者たちがすぐに視点を未来志向へと切り替えられたのは、見本となる経営者がとても身近にいたからだ。
30年ほど前に、研究会を始めた杉山定久会長である。

会長はすでに年齢は80代。
自身が経営する南富士(三島市)は、月1000棟もの住宅の屋根工事を手がけ、施工量で日本一を誇る。

杉山氏が60代になって始めた同社の事業が、
ニートを屋根職人にするために60日間の無料研修する「ニートひきこもり仕事チャレンジ」だ。

新しい取り組みにより、ニートの就業という社会課題と同時に、人材不足という経営課題を解消し、会社を成長させた。

事業を継続・成長させる鍵は「仕事を失う将来」に不安を抱くのではなく、
目の前の社会課題を解決する「仕事を創る現在」にフォーカスすることだ。

特に可能性が大きいのは、デジタル化が遅れている業界だ。

なぜならデジタルに遅れている業界とは、逆にいえば、デジタル化しなくても十分やっていける業界。
すなわちAIに仕事が奪われづらい業種だろう。

そうした業界の経営者や幹部たちが、
自分たちこそ「AI本格化時代のヒーローになる」と自覚を持ち始めることは大切だ。

「歳だから…」と言い訳をしていては、社会のお荷物になってしまう。
だからChatGPTに尋ねるべきは
「これまでの自分の経験は、AIとどんな相乗効果があり、どんな社会課題の解決に役立つのか?」という問いである。

人生の目的を再設計することは、自らのステージを引き上げて再誕生する糸口をつかむことになるはずだ。

 
 

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