先進技術どう提案 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」23/10/23号

2023/10/30

ほぼ1年前のことだ。
留学先でご一緒して以来、交流させていただいている日産自動車の遠藤淳一専務執行役員と会食した。

その時に、Nissan Connect(日産コネクト)の話題が出た。

スマートフォンによるエンジンやエアコンなどの遠隔操作、車内での音声操作、
ボタン一つでつながるオペレータ、走行データの蓄積などを行うサービスだ。

電気自動車(EV)の市場競争力を大幅に向上させる戦略テクノロジーだが、
新たなデジタルサービスなので現場スタッフは顧客に説明するのが難しい。

販売マニュアルも複雑な要因が絡み合って作りづらいという。

私は酒杯を傾けながら言った。
「社内からは見えないこともあるかもしれないので、一度、お伺いしましょうか?」

10名ほどの担当社員が参加する3時間のワークショップを開催したところ、1年後にうれしい報告をいただいた。

この戦略的商品の販売が軌道に乗り、累計10万台超に導入されたという。
もちろん多様な成功要因があると思うが、私も少しは貢献できたようだ。

私がワークショップでしたことは特別なことではない。むしろ門外漢だったことが功を奏したといえる。

ワークショップの前に、現状の課題を分析したリポートが社員から提供された。
課題の一つにはリソース不足があり、その課題をクリアする方法や段取りが事細かく書かれていた。

私なんぞの支援は必要ないのではないかと素直に思える内容だったが、
門外漢の私はそれとはまったく違うアプローチを提案した。

それは「逆算思考法」(フューチャーマッピング)だ。

ただ一人の顧客が未来に手にする幸せにフォーカスしながら物語を描くことで、
仕事上の制約を忘れ、普段は気づかない選択肢やリソースを発掘できるアプローチである。

社員たちが幸せにしたい顧客の物語を考えてもらうと浮かび上がってきたのが30代男性客だ。

エクストレイルという車が欲しくて何回も来店しているものの、予算が足りない。
しかし思い切って車を買い、彼女とドライブした結果、結婚に至った物語だ。

完全なる妄想なのだが、物語を描くうちに顧客ニーズを深く理解。
他部署の人たちとも物語を描くことで、部署間の壁を超えて話すことができたという。

得られた気づきは、リソースは社外に豊富にあることだ。それは「顧客」。
日産コネクトはヘビーユーザーが数多くいて、自らSNS(交流サイト)や動画サイトなどで宣伝してくれる。

顧客の知識を販売現場に生かし共創すれば、
サービスの利便性と魅力が徐々に市場に広がるという道筋に気づいたのである。

つまり、物語づくりによって、いったん目の前の課題から離れることで、
今まで壁に阻まれ見えなくなっていた「顧客」というリソースを思い出せたわけだ。

日本企業は真摯で能力の高い人材がそろう。
だからこそ、壁に対抗するのではなく、新しいアプローチによって壁のない世界で遊び、探求する。

そうして新たな可能性を発見できるタイミングにきている。

 
 

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