飲食店はチップ制度導入を ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/8/5号

2024/8/12

ユーチューブ講演家として知られる鴨頭嘉人さんと、彼が経営する焼肉店「YAKINIKUMAFIA」で会食した。

いくつもの驚きがあったが、一番驚いたのは私のテーブルを担当した店員の年収が850万円に達していたことだ。
飲食業界の平均年収は259.5万円(2023年厚生労働省調べ)だから、3倍超えの水準である。

背景にはチップ制度の導入がある。
会計時、顧客はチップを渡したいスタッフの名を用紙に記入し、チップを支払う。
チップは店舗で売上処理された後、スタッフに直接渡される仕組みだ。

チップ制度の導入は大きな意義があると感じた。
飲食店の仕事はやりがいは大きいが、重労働で難しい顧客対応もあり決して楽ではない。
従来の低賃金では長期的なキャリア形成やウェルビーイングの確保は難しい。

しかしチップ制度があれば、スタッフはより高い収入を得られ、仕事のモチベーションや自尊心が向上する。
そうすれば成長のために自己投資もするようになり、好循環が生まれる。

同店でチップ制が成功している理由には、SNSの積極的な活用も挙げられる。
そもそも「YAKINIKUMAFIA」は堀江貴文さんがプロデュースする焼肉店フランチャイズであり、
鴨頭さん自身がユーチューブ登録者100万人超のインフルエンサーだが、それだけではない。

たとえば、特別な焼き肉鍋から蒸気が湧き上がる〝映える”瞬間があると、
「スローモーションで撮るといい」とスタッフがアドバイスする。
その様子をSNSに投稿することで、コアなファンから周辺のファンへ口コミが広がり、来店に導くように設計されている。

実際、接客を体験すると、スタッフたちが非常に活気に満ち、ホスピタリティもプロフェッショナル。
普段はミュージカル俳優や会社役員をしているスタッフもいて、多様なバックグラウンドが接客に豊かな深みを加えている。

彼らは顧客とのコミュニケーションを通じて個性やストーリーを共有することで、
一店員以上の存在としてより深いエンゲージメントを実現している。

私も、頑張りに共感し2人のスタッフにチップを渡した。

この店のチップ制は、コロナ禍に飲食店を応援するために鴨頭さんが考案。
円安の影響で増加する外国人観光客との相性もいい。

海外ではチップ文化が一般的なので、「チップ制度のある店ならホスピタリティのあるサービスを受けられる」
「安心してコミュニケーションがとれそうだ」と外国人客に受け入れられやすい。
実際、外国人客が増えたことから、同店のスタッフも英語学習に力を入れ始めたという。

鴨頭さんは、さらにインバウンドに力を入れるために、別の飲食業態でハラル認証を取得し、
イスラム教徒の顧客も取り込む予定だ。

チップ制度の導入は、日本の飲食業界に新風を吹き込む。
外国人観光客の満足度を高めることで都市全体の活性化を促進する。

まだ実験段階であるが、こうした挑戦にフォロアーが続けば、
日本が国際的な観光地としての地位をさらに強固にするひとつの鍵になるかもしれない。

 

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