AI検索でヒットさせるには ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」24/11/25号
2024/12/2
先日、興味本位でChat(チャット)GPTの「GPTサーチ」ボタンを押してみた。
それは、まるで別世界に足を踏み入れたかのような体験だった。
検索結果が全て画面上に表示され、そこで完結してしまうのだ。
ユーザーにとっては便利だが、企業にとっては由々しき事態である。
ユーザーは人工知能(AI)が要約した情報を見て満足し、自社サイトを訪れなくなるからだ。
まさに情報を奪われる「検索革命」が進行している。
このAI検索の台頭は急速で、米パープレキシティの最高経営責任者(CEO)の投稿によれば、
24年初に月間アクティブユーザー数が1000万人を超えたという。
質問に対し即座に関連情報をまとめ、出典を明示する手法でユーザーは答えを即座に得られる。
国内でも、Feloが検索結果をマインドマップ形式で可視化し、そのままプレゼン資料として利用できる機能を提供。
現場のビジネスパーソンから支持を集めている。
この流れはデジタルマーケティングを根底から揺さぶる。
従来のSEO(検索エンジン最適化)の有効性は低下。
広告もユーザーの目に触れにくくなった。
AIはよほど明確に問わないと、特定企業を検索結果に示さない。
検索のルールそのものが変わったのだ。
では企業はどうすれば生き残れるのか。
キーワードは「引用価値」だ。
情報を大量に発信するだけでは、AIの養分に過ぎない。
価値ある情報源として引用されるには、3つの条件を満たすことが重要と考えられる。
第一に、その分野を象徴する存在であること。
検索エンジンといえばグーグル、電気自動車といえばテスラと圧倒的認知度を誇るブランドかどうかが、
AIにとっても引用価値の基準になる。
第二に、深い専門性を持つ長文コンテンツだ。
各分野で信頼される核心的な知見を提供すれば、AIにも「信頼の象徴」として認識される。
第三に、ユーザーとの有機的なインタラクションだ。
SNSやコミュニティ運営を通じた信頼関係の構築が、AIによる引用価値を高める。
山形の酒田米菓は2000人超の女性コミュニティと企画段階から対話を重ね、
おいしく備蓄もできるせんべい「美ちっぷす」を開発した。
こうしたユーザーとの協働プロセスでネット上での活発な口コミが起これば、
AIに価値ある情報と認識される可能性が大きい。
しかし、ここで本質的な問題が浮上する。
AIが引用する「信頼性の高い情報」は、果たして真の価値を持つのかという点だ。
製造業では工場での生産プロセスや作業員の経験による暗黙知が、
小売業では店頭での消費者の生の反応や従業員の肌感覚による予測が、
デジタルデータだけでは決して捉えきれない重要な知見となっている。
真に引用され、話題となるために不可欠なものは「真実性」である。
表層的なデジタル情報が氾濫する中、現場での体験や肌感覚に基づいた深い洞察こそがAIにとって唯一無二の情報源となる。
そして容易に虚偽が広がりうる時代だからこそ、
真実を追求し続ける企業姿勢が最も価値ある「引用」を生み出すのだ。
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