女性リーダーのロールモデル ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」25/12/14号

2025/12/22

「女性リーダーのロールモデルがいない」。
この言葉を何百回聞いただろう。

この3年間、米ウォートン・スクールと女性リーダーの活躍支援に取り組んできて、
女性管理職候補から最も多く聞いたのがこの嘆きだった。
目指すべき像が見えない。

ところが10月に突然、状況が変わった。
高市早苗首相の誕生、片山さつき財務相、小野田紀美経済安全保障相の入閣だ。
このことは、新たなロールモデルが広がる契機になると私は捉えている。

女性の最高経営責任者(CEO)は、危機の際に男性より高い業績をあげるという研究がある。
S&P Global Market Intelligenceの調査によると、女性CEOが就任した企業の株価は就任後2年間で平均20%上昇した。

危機の時代に求められるのは強さではなくしなやかさ、正面突破ではなく温度調整力だからだ。

高市首相も、そうした女性ならではの「しなやかさ」を発揮した。
日韓関係について問われた際「韓国が好き。韓流ドラマも韓国コスメも好き」と答えた。
論点を硬い領域から生活者の語彙へずらすことで、衝突を溶かしたといえる。

ただ、高市首相が女性リーダーのロールモデルというわけではない。
危機の時代に必要なのは単独のカリスマではなく、役割の多様性を束ねるチーム構造。
片山氏や小野田氏などの異なる個性が互いに補完し合う関係性だ。

これを説明するのに、意外な物語が役に立つ。「美少女戦士セーラームーン」だ。
1990年代に誕生し、グッズなど世界で累計130億ドル(約2兆円)を売り上げた文化的巨人である。

本作をリアルタイムで体験した世代は今、30~40代となった。
つまり企業の購買決定を左右する層の価値観の根底に、セーラームーンがあるといえる。

この作品は単独のヒーロー物語ではない。
ムーン(月)は象徴性としなやかさで空気を整え、マーズ(火)は突破力で道を開き、
ジュピター(木)は実務で組織を支え、マーキュリー(水)は分析で戦略を練り、
ビーナス(愛)は発信でムーブメントを創る。

5つの異なる役割がそろって初めてチームが最強になる。
先述した3人は、物語の主要キャラクターそのものだ。

女性リーダーは、ひとりで完璧である必要はない。
かえって「ひとりの完璧像」を探しすぎたことが、企業が女性管理職の育成で迷走した原因となった。

もちろん、役割は女性だけが担うものではない。
重要なのは性別ではなく、異なる役割が補完し合うチーム構造である。

調整力に優れた、決断と突破が得意、現場実務に信頼される、データ分析で語れる、発信力で文化を創る。
この5タイプがおのおのの強みを生かした瞬間、組織は最も強くなる。

ロールモデルはもういる。ひとりの完璧な像ではなく、互いに補完し合う複数の役割として。
企業が求めた答えは、既に物語の中に描かれていた。

あなたの会社の〝セーラー戦士〞は誰だろうか?



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