海外でウケないは常識か ――日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」9/4号
2017/9/11
「日本のラーメンは海外でウケるが、日本そばは絶対にウケない」。
かつて常識とされていたことだ。
日本そばは海外では知名度が低いし、魚のだし汁が苦手な外国人も多い。
日本そば店が海外で成功するのは不可能とまでいわれていた。
その常識を覆したのが、
「名代富士そば」を運営するダイタンホールディングスの2代目社長、丹有樹氏だ。
名代富士そばは1都3県に絞って展開している立ち食いそば店。
首都圏在住の人にはおなじみだろう。
そんな同社だが、海外にも進出している。
第1弾は2013年のインドネシア。
そのインドネシアこそ撤退したが、現在は台湾4、フィリピン5、シンガポール1、と
計10店舗を構えるまでに成長した。
なぜ、海外で成功したのか。
それは丹社長の周到な準備があったからだ。
「日本だけでは成長の限界がくる」と考えた丹社長は、
海外進出をするために、意外な行動に出た。
それは、日本で新業態に挑戦することだ。
12年、東京・渋谷にオープンした「つけ蕎麦 たったん」がそれ。
健康志向の女性をターゲットに、韃靼(だったん)そばをつけそばで提供する。
今までの店とは価格帯も客層も、大きく違う。
「日本で新業態を立ち上げることが海外進出とどう関係が?」と思うかもしれないが、
これが大いに関係がある。
その目的は、
未知なる市場にも積極的に挑めるマネジメントチームを作り上げることだ。
実は丹社長を含めたダイタンHDの現経営陣は、富士そばに経営資源を集中する戦略を取り、
それ以外の飲食店への進出は控えてきた。
しかし海外で同じモデルが通用する保証はない。
各国のニーズや文化に合わせて、
業態やメニュー、味などを柔軟に速やかに変えていかなければならない。
その経験を積むために、まずは日本で、
迅速なメニュー開発が必要となる業態に挑戦したのだ。
「たったん」は3年で閉店したが、ここで業態やメニューを試行錯誤した経験は、
その後の海外進出に生かされた。
国の事情にあわせた、柔軟な事業開発ができたのである。
例えば、フィリピンでは、レストラン形式の中価格帯の日本そば店を出店。
地元の人々から人気を博し、2年ほどで5店舗をスピード展開できた。
シンガポールでは、鍋や一品料理も提供する高価格帯の日本食レストランを出して、
舌の肥えた人たちからも支持された。
昨年12月のオープンから半年で、売上が約2倍に伸びた。
台湾では、業態こそ日本に近いが、だしなどをローカライズし、
とんこつ味や鶏白湯のスープも出し、幅広い客層をつかんでいる。
こうして丹社長は、不可能といわれた日本そばが
海外でも受け入れられることを証明したわけだ。
「うちのサービスは海外ではウケない」。そんな“常識”を振りかざし、
国内にとどまる経営者は少なくない。
ただ、それは単に挑戦していないだけだろう。
あなたが挑戦すれば、それは必ず、あとで生きてくる。
挑戦は自分のためにではなく、後世のためにするものである。