「人事の力」が創造性高める ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」22/10/17号

2022/10/24

「魔改造の夜」というNHKの番組をご存じだろうか。

超一流のエンジニアたちが子供のおもちゃや家電にアイデアとテクニックを注ぎ込み、
圧倒的なパフォーマンスのマシンへと変貌させる、技術開発エンタメ番組である。

技術力や発想力、協働力など複合的な能力が問われるため、名の知れた大企業チームが勝利することが多いが、
その大企業を打ち負かすチームが現れた。

SOLIZE(東京・千代田)というデジタルエンジニアリングの会社だ。
なぜ同社は大企業も驚くほどのイノベーティブな創造力や技術力を発揮できたのか。

その秘密は「人事の力」にあった。
人事の力で創造力や技術力を最高度に発揮できるように導いたのである。

同社の宮藤康聡社長は技術者ではない。もともとはホンダやユニクロの人事で活躍した人事マンだ。
宮藤さんはSOLIZEの前身のベンチャーがリーマン・ショックで業績悪化したとき、リストラの責任者を経験。

会社の民事再生が成功すると、グループ子会社の社長に就任し、手腕を発揮し始めた。
さらに新規事業を推進すると、それが評価され、本社の社長へと抜てきされたのである。

技術会社である同社のトップに人事マンが就くのは異例だった。
しかし、その人事の力によって技術集団のイノベーションが引き出されたのだ。

仮想現実(VR)を使って創造性を生み出す体験型バーチャル学習コンテンツ「SADOKU」を始め、
これまでにない新たなプロダクトが次々と生まれるようになった。

そのイノベーションのプロセスが面白い。

SADOKUでは、VRを使ったスカッシュなどの体験によって日常世界との違和感を覚えてもらい、
興味をかきたてることで、自主的な学習や研究へと導いていく。

そして、これと同じプロセスを踏める環境を社員にも提供している。

仕事上の違和感をエンジニアが深く探究する場を整えることで、
「こんなこと、できたらいいな」という興味・関心・欲求を育てていく。
そのアイデアをプロトタイプにすることで、商品化がスムーズに進む。

実はこの社員の創造性を引き出すプロセスは、マーケティングの消費行動喚起のモデルに近い。

お客様の注意をひきつけ(Attention)、関心をもたせ(Interest)、欲求を高めて(Desire)、
記憶されることで(Memory)、行動が起きる(Action)。つまり「AIDMA」だ。

それに対し、創造性のプロセスは、MがP(Prototype)に変わるので、「AIDPA」ともいえる。

マーケティングにしても、創造性にしても、プロセスのポイントは共通している。
それは欲求が育っていく場を設計することだ。

それができれば、挑戦する技術者も、新商品を欲しがる消費者も育てられる。

さらに今では、学習欲求が育つ場をバーチャルで整えることが可能だ。

このように「創造を動機づける場とプロセス」をしっかりと理論化できれば、私たちは子供たちと遊びながら、
あらゆる「成熟技術の魔改造」に挑戦できるタイミングにいるのではないだろうか。

 

 

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