「タダヤサイ」が秘める価値 ― 日経MJ連載「未来にモテるマーケティング」19/3/3号

2019/3/11

現在、全国21の都市を縦断しながら、連日、講演会を開催している。
2011年の東日本大震災の翌年から始め22年まで続けるので、「2022」講演会と題している。

地域社会で活躍する経営者や社会リーダーらを応援しながら、相互協力関係の構築を促進するのが目的だ。
開始当初は不景気にあえいでいた地方企業も、やっと活気を取り戻し始めた印象を受けている。

元気な地方企業の一つが日本野菜(埼玉県本庄市)だ。
地域と都市をつなぐ面白い事業を展開している。

事業は「タダヤサイ」というサイトの運営で、
傷があったり形が悪かったり、売り物にならない野菜や果物を農家から無料で提供してもらい、
同サイトがプレゼント希望者を募るというものだ。

売り物にならないといっても、野菜は新鮮で安全。
会員数は20万人と、野菜プレゼントサイトでトップクラスだ。

「食のメルカリを目指している」と創業者の高橋栄治社長は言う。

20万人もの会員を集められた理由は、無料で野菜が得られるだけではない。

「顔が見える農家から安心できる野菜を買いたい」というニーズも満たしているからだ。

無料の野菜が気に入ったら、以後、その農家から購入もできる。
野菜の質もスタッフ対応も体験済みなので、非常に安心だ。

農家にとっても見込み客の開拓になる。

直接販売した場合、20%の手数料がかかるが、
固定客の獲得につながると考えれば、サイトを利用するメリットは大きい。

また、専業・兼業農家だけではなく、家庭菜園から収穫された野菜も、無料で提供が可能だ。
こちらもサイトのにぎわいを高めている。

タダヤサイは、プラットフォーム事業の構造を理解すると、
さらに収益性の高いモデルへと進化する可能性を秘めている。

この事業モデルは、野菜を提供する農家と野菜をもらう、あるいは買う生活者が、
同じプラットフォームのうえで「プレーヤー」として交流し、
運営者はその交流を促すプロデューサーという位置づけだ。

その交流から生まれるデータを元に大きな価値を生み出すのが、プラットフォーム・ビジネスの神髄だ。

タダヤサイも、交流を促すことで、
地方の農業と都市生活者をつなぐ多様なビジネスを生み出す土壌となれる。

たとえば、「生産者の顔がみえる朝どれ野菜を売りにした飲食店」「子ども向け体験型学習の提供」
「自然体験・レクリエーション」……。

さらにはひきこもり対策や、職場のストレス軽減のためのリハビリといった新しいニーズへの訴求も考えられそうだ。

米国では、地域社会を中心とした農業と都市との交流が進んでいて、
サステナブルな地域経済圏をつくりあげる「BALLE」という団体が広がっているが、
その日本版をつくるなどの展開もあり得る。

IT(情報技術)を活用し、地方農家と都市生活者をつなげば、
多くのデータが取得でき、より明確なニーズがあぶりだされる。

日本再興戦略の一環として、20年に6次産業の市場規模を10兆円に伸ばすという政府の後押しもある。

農業と都市をつなぐITビジネスの前途は有望だ。

 

 

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